
大阪・関西万博が開幕した。テーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」。未来を見据えた技術、文化、思想が交差するこの万博は、単なる展示の場ではなく、新たな価値観と出会うための場所でもある。しかし、開幕に際しては、課題も浮き彫りとなった。例えば、いくつかの国のパビリオンは内装工事の遅れなどにより開幕に間に間に合わなかった。また、「並ばない万博」を掲げていたものの、入場ゲートでは通信障害が発生するなどのトラブルが報告された。これらの問題は、今後の運営において改善が求められる点であるが、ここでは課題ではなく、この万博にある注目すべき展示やパビリオンについて見ていこう。
【LIXIL】人びとの暮らしの質の向上と地球環境の未来に貢献

株式会社LIXILは、人びとの暮らしの質の向上と地球環境の未来に貢献するイノベーティブな製品を発表した。そのひとつがシグネチャーパビリオンのひとつ、小山薫堂氏がプロデュースする「EARTH MART(テーマ:いのちをつむぐ)」パビリオンに、循環型素材「レビア」を使用した舗装材「レビアペイブ」。
「レビア」は、再資源化が難しかった家庭や事業活動から排出される廃プラスチックと廃木材を原料としており、これらの廃棄物を資源として有効活用するとともに、廃棄物処理にかかるCO₂排出量の削減にも寄与。パビリオンは、解体後に畑の堆肥や家畜の飼料に利用できる茅葺き屋根が採用され、循環を象徴する転用可能な素材で構成される循環型建築だという。「レビア」も利用可能な水平リサイクルできる循環型素材であり、パビリオンのテーマに即した素材と言える。
【スシロー】水産資源の持続可能な取り組みを美味しく学べる

株式会社あきんどスシローはサステナブルな水産資源に関する取り組みについて食事を楽しみながら学べる「スシロー未来型万博店」を大阪・関西万博会場内の「静けさの森ゾーン」にオープンさせた。

天然に依存しない水産資源の重要性が増していることを反映し、水産物を使ったメニューは全て養殖のものを使用し、中でも先端技術を用いた海洋保全に貢献できる「陸上養殖」や天然資源の保全に寄与する「完全養殖」で育てた水産物を用いたおすしを「あしたのサカナ」シリーズとして提供している。
具体的には海の再生に貢献できる「陸上育ちの磯まもりウニ包み」をはじめとし、産学連携で研究された沖縄の高級魚「陸上育ちの琉大ミーバイ塩〆」、地下海水を使用し養殖した「陸上育ちの〆サバ」、あっさりとした味わいの「陸上育ちのビカーラうなぎ」、しっとりとした上質な脂のうまみが特長で、完全養殖で育てた「秘蔵っこ尾鷲のしまあじ」など、環境や天然資源に配慮した養殖方法で育てられた商品9品が提供されているという。
また、デジタルビジョンと回転レーンが融合したシステム「デジロー(デジタル スシロービジョン)」を全席に設置。来店者は水産資源の課題や持続可能な取り組みをゲームを通じて学べる「UNI CATCH GAME」も万博限定で体験できる。
【シンガポール パビリオン】シンガポールらしさを没入型の体験で楽しめる

ドリーム・スフィア(The Dream Sphere)と呼ばれるシンガポールパビリオンでは、シンガポールの文化、イノベーション、未来へのビジョンを巡る多感覚的な旅を体験できる。

ドリーム・スフィアでは、シンガポールのインクルーシブな社会も反映し、障がい者を含む多様なシンガポール人アーティストのパフォーマンスも行われる。自然、野生動物、そして人々の調和がとれた全ての生き物の住処として発展してきたシンガポールらしさはトーキング・ツリーなどの対話型の展示からも感じられる。また、シンガポールの国花でもある蘭が美しく咲き誇る「ドリーム・フォレスト(Dream Forest)」もみどころ。
産学共同研究のメディアアート「Zero Gravity Art」

京都大学防災研究所アートイノベーション産学共同研究部門教授・土佐尚子氏がアーティスト活動を行なっている株式会社NTアソシエイツ、TOPPANホールディングス株式会社、株式会社島津製作所は、3者による共同企業体(コンソーシアム)「Zero Gravity Art」を通じて、未来社会ショーケース事業「フューチャーライフ万博・フューチャーライフエクスペリエンス」に協賛し、メディアアートの常設展示を行っている。


土佐氏は開幕前に「近未来に人類は無重力空間である宇宙へと旅立つでしょう。無重力空間は、水中と似ていると言われており、私たちは母親の羊水の中で心音を聞いて過ごします」とコメントしており、制作されたのは多くの人から提供された産声と心音を用いて無重力下で作った「Sound of Ikebana」の映像で構成された微小重力体験空間で、羊水の中にいることを擬似体験する装置「Zero Gravity Art」。「生命の誕生」と「生命の未来」を感じられる展示となっている。
【オランダ パビリオン】最新テクノロジーを活用しダイバーシティ体験を提供

総合人材サービスを提供するランスタッド株式会社は、4月25日(金)と5月18日(日)にオランダパビリオンにおいて、誰もが自分らしく輝ける未来の職場や社会をテーマに、VR等を使用したダイバーシティ体験の機会を提供する。

発達障がいや認知症のVRシミュレーションや、聾者・聴者問わず共に音を振動と光で楽しむ装置など、先進技術を活用した体験を通じて自分とは異なる多様な人々へ理解を深め、異なる個性が共創する未来のワークプレイスについて考えるということだ。
大阪・関西万博では、未来の暮らしや食事、働き方、アートなどを実際に体験しながら学ぶことができる。多くのパビリオンや展示が、持続可能な未来社会のあり方を示しており、来場者に新しい視点を与えてくれる。こうした価値観や発想に出会えることこそ、万博の大きな意義と言えるだろう。
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