誕生してから約250年。現代でも主な交通手段として多くの人が利用している自動車は、時代とともに形を変えてきた。今では、電気をエネルギー源とするEV自動車の登場や、アクセル・ブレーキ・ステアリング操作などの運転をサポートする運転支援技術が導入された自動車などが販売されている。このように、進化を続け、人々の安全や利便性を追求してきた自動車だが、今まさに大きな転換期を迎えようとしている。それは、自動運転技術の登場だ。自動運転車両が普及すれば、運転手が人間からシステムに代わり、ドライバーは運転から解放される。さらに、自動運転車両が行き交う街では、事故の確率も減らすこともできるだろう。今回は、自動運転についての世界的な取り組みをもとに、自動車の未来について考える。
自動運転技術が注目される理由
世界で初めての自動車は、1769年にフランスで誕生した蒸気で走る自動車だった。この自動車は、軍事用の大砲運搬車として作られたため、車体が大きく、スピードも10km/h以下だったといわれている。そんな速度の遅い自動車だったが、走行実験中にハンドルを切り損ねて壁に激突。世界初の交通事故を起こした車でもあったのだ。
このように、従来の自動車は人間が状況を判断し操作を行うため、操作ミスや疲れからくる注意力の低下などが原因で思わぬ事故が発生してしまう。それに加え、内閣府が発表した「令和元年版交通安全白書」によると、平成30年中の交通事故発生件数は日本全国でおよそ43万件。そのうち、漫然運転や脇見運転などの安全運転義務違反が約57%を占めており、事故の大半は人間の過失によって起きていることがわかる。
全てのドライバーが交通ルールを守る事ができれば、事故を起こす可能性は減らすことはできるだろう。しかし、全員に交通ルールを徹底させることは難しい上に、徹底できたとしも、うっかり操作を誤ってしまえば事故に繋がる。そこで、自動運転技術を活用すれば、法令違反・不注意といった人的要因を排除し、交通事故の大幅な低減ができると期待されているのだ。
開発が進む自動運転技術
自動運転技術には米国自動車技術者協会が定める、0から5の6段階の「自動運転レベル」が存在し、現在の日本で発売されている一部の自動車には、すでに自動運転レベル2の技術が搭載されている。自動運転レベル2とは、運転操作の主体はドライバーであるが、アクセル・ブレーキ・ステアリング操作などを部分的にサポートする運転支援技術のこと。自動運転レベル3以上になれば、レベルごとに制限はあるものの、運転主体がシステムとなり“自動的に運転してくれる”ものになるのだ。現在の市販車に実装されているのは自動運転レベル2までの技術だが、実際は、自動運転レベル3の技術が市販車に搭載できるまで開発が進んでいる。
その証拠に、ドイツの自動車メーカーのAudi社は2017年7月に、世界初の自動運転レベル3を搭載する「Audi A8」を発表している。自動運転レベル3であることから、全ての公道で自動運転できるわけではなく、“中央分離帯を備えた高速道路”や“60km/h以下の速度で走行しているとき”に限られるが、自動運転中はドライバーはステアリングから手を離すことができる。
自動運転技術が進歩したことで誕生したAudi A8だが、実際に販売されている車両には自動運転技術は搭載されていない。その理由は法律にある。日本においても、従来の法律ではシステムが車両を操作するということが想定されておらず、どのような形で自動運転を認めるかが決まっていなかった。しかし、2019年に改正された道路交通法が、2020年4月1日に施行されたことにより、自動運転車両が公道を走ることが認められた。
それに加え、本田技研工業株式会社が、2020年内に自動運転レベル3対応の自動車の販売を目指すなど、日本は世界に先駆け、自動運転についての対応を進めている。今後は、世界中で自動運転にまつわる法整備が行われ、自動運転車両の需要は高まるだろう。
自動運転車両が普及する未来
世界中で注目される自動運転技術。自動運転レベル3対応の自動車の開発だけではなく、トヨタ自動車をはじめ、各自動車メーカーでは自動運転レベル4の開発も盛んに進み、一部では同乗試乗ができるまで完成している。しかし、自動運転車両が普及するには、安全性や正確性などをクリアした技術だけではなく、各国の法整備も必要だ。日本の自動運転レベル3の解禁を皮切りに、さらに自動運転車両に注目が集まると同時に、多くの問題が出てくることが予想される。しかし、今までの自動車の進化の過程を見れば、そう遠くない未来で自動運転車両が行き交う世界になるのではないだろうか。
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