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“未来の街”となるか? 世界中で推進されるスマートシティ構想の目的

2020.07.17

“未来の街”と聞いてあなたはどんなことを想像するだろうか。「車が自動運転で目的地まで移動する」「家庭で出た生ごみが燃料になる」など、まるで夢のようなことを思い浮かべる人もいるはずだ。

でも実はその未来、案外先のことではないのかもしれない。先ほど挙げた例はすでに活用されていたり、実証段階・開発段階にあったりするもの。特に、ゴミを燃料にするという技術はバイオマス発電と呼ばれ、CO2を排出せずに処理でき、なおかつエネルギーとして再生できるため環境に優しいと注目を集めているのだ。

こうしたさまざまな技術を結集し、暮らしやすく環境に配慮した“未来の街”を実現しようとしているのが「スマートシティ(構想)」。近年テレビやインターネットなどで目にする機会も多くなったと思うが、実際にどのようなことを目的としているのか分からない人も多いはず。今回は、そんなスマートシティが目指すものと実例を学び、私たちの暮らしを豊かにしてくれる街の「未来予想図」を考えていこう。

スマートシティが目指すものと持続可能な社会

まず、本稿のメインテーマである「スマートシティ」とはなにか、その定義を押さえておこう。各国でその認識に差異があるが、日本において国土交通省が提唱するスマートシティの定義では「都市の抱える諸課題に対して、ICT等の新技術を活用しつつ、マネジメント(計画、整備、管理・運営等)」が行われ、全体最適化が図られる持続可能な都市または地区」とされている。少しかみ砕いて説明すると、AIやIoTといった先端技術を活用し、環境に配慮しながらインフラの整備やサービスを効率化することで、私たちの生活の質を向上。併せて、社会的にも経済的にも持続可能な街づくりを行うことを目指す取り組みだ。

この定義で注目してもらいたいのが「持続可能」というキーワード。近年、本格的な取り組みが始まった「SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)」という国際目標にも関係している。SDGsとは、地球規模で取り組む課題や社会問題などの解決によって、「誰一人取り残さない」持続可能で多様性のある社会の実現を目的としたもの。2015年9月に開催された国際サミットで、2016~2030年までの国際目標として採択された。17の具体的な目標とそれを達成するための169のターゲットに細分化されており、それぞれ数値目標や達成条件などが設けられているため、何ができて何ができていないのか、その程度が見えやすいという特徴がある。

そんな“持続可能”な社会にするために何よりも大切なのが「地球環境の適切な保全」。これは、人間が人間らしく生き抜いていくためにも、社会・経済活動の面でも重要なテーマになる。今の段階から環境問題に目を向け、10年先、100年先の未来を見据えた行動が求められており、それを支える基盤としてスマートシティの実現が必要とされているのだ。

スマートシティ構想の背景に潜む深刻な社会問題

ではなぜ今、このスマートシティにスポットが当てられているのか。「地球環境の適切な保全」に関連するさまざまな課題があるが、特筆すべきは「人口増加によるエネルギー不足への懸念」だろう。

「世界人口の増大が鈍化、2050年に97億人に達した後、 2100年頃に110億人で頭打ちか:国連報告書(プレスリリース日本語訳)」※1によると、調査当時(2019年)の世界人口は約77億人だが、2050年には97億人と、30年間で20億人もの人口増加が見込まれている。

一方エネルギーにおいては、エネ百貨の「主要国の一人当たりの電力消費量」※2の世界平均では一人当たり3,152kWh*1の電力を消費している。これが77億人分だと最低でも24,270TWhの電力が必要となる計算だ。
*1…Wh:ワットアワー。一時間当たりの電力消費量。kはキロ=1,000、Tはテラ=1兆

イギリスのエネルギー関連企業BPの調査「Statistical Review of World Energy 2019」※3によると、世界の発電量は27,005TWh。先ほどの数値と比較すると……確かにギリギリだ。仮に、現在の発電量のまま97億人にまで増えた場合には30,574TWhが必要な計算になるため、圧倒的に電力が不足してしまう。

これにはもう一つの懸念点がある。それは世界の資源燃料のうち全体の約60%を化石エネルギーが占めているという点だ。化石エネルギーとは石炭や石油、天然ガスといったいわゆる“使い切り”のエネルギーの総称。量に限りがあるため、人口が増加すればその分消費量も増え、より発電量が足りなくなってしまうだろう。

そんな現状を鑑みて、昨今注目されているのが「再生可能エネルギー」。太陽光や風力、水力、バイオマスなど自然界に常に存在しているエネルギーのことで、その名の通り、化石エネルギーのように“使いきり”ではなく再生可能なため、どれだけ使用しても枯渇しないことが特徴。二酸化炭素などの温室効果ガスを排出しないため、環境にも配慮されている。まさに持続可能だ。

このように、「社会的にも経済的にも持続可能な街づくりを行うこと」を実現するため、デメリットを先進技術でコントロールし、化石エネルギーに頼らない街をつくろうとしているのがスマートシティの大義でもあるのだ。

モデルとして開発の進む日本のスマートシティ

さて、概念や数字ばかり見ていても実際にはどのように運営されているのか気になるところ。ここでは、日経クロストレンド「スマートシティの3類型から見る日本の勝ち筋」※4の中で提唱されている、「大企業主導型」「国家・自治体主導型」「市民参加型(共創型)」の3分類を拝借し、筆者が注目する国内のスマートシティの取り組みを見ていこう。

■大企業主導型

大企業主導型で取り上げたいのが、2020年1月にアメリカ・ラスベガスで行われた「CES 2020」にて、トヨタ自動車から発表されたスマートシティ「ウーブン・シティ(Woven City)」だ。

“編まれた街”を意味するウーブン・シティでは、都市のデータを収集・管理し、住民の生活の中で活用するプラットフォーム「都市OS」を、NTT他さまざまパートナー企業とトヨタがタッグを組んで構築。MaaSや自動運転車の導入といった交通インフラ、IoTやAIを活用した通信インフラなどを住民の生活に自然な形で導入し、実証実験を繰り返すことでサスティナブルな都市を作りあげようとするプロジェクトである。静岡県裾野市に建設が予定されており、初期段階ではトヨタの従業員や各種関係者をふくむ約2,000名の入居が予定されている。

その名が示すように、ウーブン・シティは街の主要道路を通る人・モノや速度で分類した「3つの道」が網目状に編まれたデザインを目指している。

①スピードが速い車両専用の道として、「e-Palette*1」など、完全自動運転かつゼロエミッションのモビリティのみが走行する道
②歩行者とスピードが遅いパーソナルモビリティが共存するプロムナードのような道
③歩行者専用の公園内歩道のような道
*1 e-Palette:人やモノの配送・輸送に加え、移動用店舗にもなる自動車

これらを実現するためには街のインフラ整備がネックになるが、この街では住民の暮らしに使用する燃料電池を含め、インフラ設備を全て地下に配置。フラットになったキャンバスに思い通りの道をつくることが可能になった。

加えて、サスティナブルな社会と住民同士のコミュニティを意識した街には、建物にカーボンニュートラルな木材を使用し、屋根には太陽光パネルを設置。住民同士がコミュニケーションを図れるよう街のあちこちに広場や講演を設けることも予定されている。さらに、各施設の室内にはロボットや各人の個人データを管理するAI・センサーも導入。健康状態のチェックをはじめとして、生活の質を向上させる取り組みが進められている。

トヨタが主体となって交通の分野で生活様式の新しい形を提案し、各企業が各々の得意分野でサポートする。大企業主導型の新たなスマートシティが構築されようとしている。

■国家・自治体主導型

ここでは「横浜スマートシティプロジェクト(以下、YSCP)」※6の取り組みを見ていこう。YSCPは平成22年に経済産業省から「次世代エネルギー・社会システム実証地域」に選定されたことを発端に、家庭や業務ビルなどが立ち並ぶ市街地のエネルギーバランスの最適化を目指したもの。横浜市が主体となり、電気メーカーやエネルギー関連事業、建設会社他34社と連携して平成26年までの4年間進められた。

「世界一のスマートシティ・モデルを先行確立し、海外都市に向けて横浜型ソリューションを輸出する」とのミッションの下、電気設備や家電などをIoTでつなぎ、電力やガスといったライフラインの使用量・稼働状況を「見える化」できるシステム「EMS(Energy Management System:エネルギー管理システム)」を導入。一般家庭には「HEMS(Home Energy Management System)」を、商業用ビルなどの施設には「BEMS(Building Energy Management System、一部蓄電池付き)」を導入することで、エネルギーの管理・削減を行いながら再生可能エネルギーの生産を可能にした。

また、電気自動車の普及や公共交通機関の利用を促すことで、交通分野でのCO2の排出量を削減。住まいのみならずモビリティにおいても徹底的なエネルギー管理を実現した。

平成26年以降は、YSCPでの成功事例や課題を踏まえて培ったノウハウを活かせるよう「横浜スマートビジネス協議会(YSBA)」を設立し、環境のみならず防災に強く経済的にも安定したエネルギー循環都市を目指し、取り組みを進めている。

■市民参加型(共創型)

市民参加型(共創型)では「柏の葉スマートシティ」の取り組みを紹介したい。

柏の葉スマートシティとは、「『世界の未来像』をつくる街」をテーマに産官学民が連携して千葉県・柏市につくられたスマートシティだ。特に「環境への配慮」を考え抜いたエネルギーのスマート化への取り組みは素晴らしく、YSCP同様に各家庭やホテル・ビルなどにHEMS(柏の葉スマートシティ内では「柏の葉HEMS」)やBEMSを導入。特に柏の葉HEMSは、自分のスマートフォンやタブレットで見える化できるだけでなく、エネルギーの使用状況に応じてAIによるアドバイスを受けることも可能。

出先から部屋のエアコンや照明などの家電を制御できる機能もあるなど、徹底した環境への配慮がうかがえる。加えて、有事の際にはスマートシティ内の住民の協力を促す節電要請機能(デマンドレスポンス)も備えており、災害に強い街づくりも実現している。

こうしたデータは「柏の葉スマートセンター」と呼ばれる施設で「AEMS(Area Energy Management System、エリア全体のエネルギーを管理するシステム)」を用い、家庭やホテル、商業施設などの電力状況を街全体を俯瞰する形で管理している。電力使用量のデータは、街中に設置されたデジタルサイネージを使って住民が常に見える状態にされているため、自然と環境意識が高まるようだ。

また、太陽光パネルや風力を使った発電、冒頭で挙げた生ごみバイオマス発電をはじめとする未使用エネルギーなどの再生可能エネルギーを徹底活用することで、CO2の排出抑制・削減にも寄与している。

このように、主導は違えど同じ持続可能な社会を目指すという目的のもと事業が進められているスマートシティ。一朝一夕には実現できない「自然 × テクノロジー × 人間」の共存へ向け、スマートシティはそのモデルケースを構築してくれているのかもしれない。

持続可能な社会へ向けて

最近では、廃棄食品である果物の皮を使った衣服の製造、レジ袋の有料化によって消費量を削減するなど、地球環境への配慮が各所にみられるようになってきた。

“未来の街”とは、ただ単にロボットが人に代わってさまざまなことを行うのではなく、環境保全を第一に考え、持続可能で暮らしやすい社会を目指すもの。そうした取り組みの発起点となるスマートシティは、さらなる未来へ向けて今後どのような変化を見せてくれるのだろうか。

【出典】
※1 国際連合広報センター 国連経済社会局人口「世界人口の増大が鈍化、2050年に97億人に達した後、 2100年頃に110億人で頭打ちか:国連報告書(プレスリリース日本語訳)」(2019年7月2日発表)
※2 一般社団法人 日本原子力文化財団 エネ百貨「主要国の一人当たりの電力消費量」(2020年1月21日更新)
※3 BP「Statistical Review of World Energy 2019」(2020年7月6日時点のデータを使用)
※4 日経クロストレンド「スマートシティの3類型から見る日本の勝ち筋」(著:中村祐介|2020年3月12日掲載)
※5 トヨタ自動車株式会社「トヨタ、「コネクティッド・シティ」プロジェクトをCESで発表」(2020年1月6日発表 ※米国時間)
※6 横浜市「横浜スマートシティプロジェクト(YSCP)とは」(2019年4月8日更新)
※7 柏の葉スマートシティ 公式HP

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