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先生や上司がAIになる時代が来るのか?

2020.05.21

私たちの仕事や趣味、習い事には、評価やアドバイスがつきもの。職場の上司や先輩、同じ趣味を持つ友人、講師が自分の所作を判断し、適切な批評を行っていることだろう。

当然だが、コンテストやコンクールといった賞レースを除けば、見知らぬ人がこのような批評を下すことまずない。なぜなら、そこには「人間関係」ひいては「信頼関係」という人ならではのコミュニケーションが存在しているからだ。

では、もし仮にこの評価やアドバイスが人ではなく人工知能(AI)に置き換わったらどうだろうか。

AIが得意とする「評価」はどのようなものか

レントゲン診断や受付ロボットなど、医療や接客などの分野で威力を発揮しているAI。最近ではより身近なものになりつつある。例えば、AI清掃ロボットの「ルンバ」「ルーロ」や音声認識サービスの「Siri」「Alexa」などで多くの人が体験しているのではないだろうか。

仕事の現場でも、同じように新しいサービスが生まれつつある。例えば、プレゼンテーション・トレーナー「プレトレ」は、プレゼンテーション動画やスライドをアップロードするだけでAIが客観評価の結果をユーザに返す。他にも人材サービスとして、登録者のスキルや適性を分析し、マッチング支援を行う「Insight Matching」などがある。これからビジネス面でもAIが浸透していくかもしれない。

そうなった際、重要なのは使用する人が満足のいく体験を得られるかどうかだ。視点がカスタマー・エクスペリエンス(CX:顧客が体験する価値)からヒューマン・エクスペリエンス(HX:人間としての経験)へ変わっていく今、私たちの仕事における「評価やアドバイス」はどのように変化していくのだろうか。

AIは膨大なデータをもとに比較や分析を行っていく。主観が入らないことにより、極めて客観的で統一性のある評価が出せるところが、機械が得意とするところだ。

「機械」からの評価と「人」からの評価によって変化する印象

人からの評価やアドバイスというのは、評価する側もされる側も、主観が入りやすくなりがち。プレゼンテーションを例に考えてみよう。全国的に有名な営業マンからと、職場の先輩からのアドバイスでは、同じことを言われていたとしても、受け手の心情は同じになるとは言い難い。しかし、機械=データからの指摘の場合はそのような差異は生まれにくい。人は、人からのアドバイスよりも機械から受けるアドバイスの方が素直に受け取りやすいという説もある。

そうだとすると、すべて機械による評価にしてしまったほうが良いのだろうか。仮にすべての上司や先生が機械へと変わってしまった場合、どのような問題が起きるのだろうか。

■問題点1 「万人受け」がかならずしも正解ではない
例えば、AIが持つデータでは、聞き取りやすくゆっくりと話す方が良いプレゼンテーションだ、という分析結果が出るかもしれない。しかし、プレゼンする相手がとにかく時間のない人で、ゆっくり話すのを好まない人だとしたらどうだろうか。そのようなパーソナルな情報は、接した人間のみが持ち得る大切な評価基準。特定の誰かへの仕事である場合、「万人受け」が必ずしも正しいとは限らない。

■問題点2 感情に訴えるものや、芸術の評価は難しい
ハーバード大学の哲学者シーン・ドーランス・ケリー教授は「人間の創造性がAIの進歩に屈することはない」と述べている。芸術や音楽など、人の感情に訴えかけるような作品を制作すること、評価することは、膨大なデータの分析が得意なAIでも難しいと考えられる。ただし、研究が進んでいる分野でもあるため、いずれはAIが芸術作品をつくれることが当たり前になるかもしれない。

■問題点3 人とのコミュニケーションで得られるものもある
人に教えてもらうことで得られるのは技術だけではなく、その人との良好な関係性もある。信頼・尊敬をもって互いに接することで、豊かな人間関係を構築できる。

上記のことから、全ての「学び」を機械化することは現実的ではないといえる。

テクノロジーの力で質の高い「学び」を、いつでも好きな時に

AIは客観的で統一性のある評価が出せるが、デメリットがないわけではない。大切なのは、適切な場所で適切にAIを使用していくことである。

適切な使い方をすれば、人間が手間・時間をかけないと不可能だったことが、機械の力で可能になる。例えば、「アダプティブ・ラーニング」と呼ばれるものなどがそれにあたる。

海外で、教育の場面に実装されつつあるアダプティブ・ラーニング。AIの得意分野である客観的な評価にプラスして、学びたい人個人に合った最適なアドバイスを行うことで、質の高い「学び」を得ることが可能になる。今後は仕事や習い事・趣味にも応用されてくることが予想できる。

また、AIでの学びは、「いつでも好きな時に好きな場所で」行えるというメリットがある。相手の都合に合わせず「学び」を受ける事ができるため、社会人のスキマ時間や、小さなお子様がいる家庭などでも、条件にとらわれにくく、得たい知識を得られるようになるはずだ。

今後、AIが上記のようなメリットを伸ばしつつ、現時点ではAIで一概に解決できない芸術や音楽の分野でも活躍できるような研究が進んでいくと、さらに可能性は広がっていくと予想される。ただし、やはり人とのコミュニケーションなど、どれだけテクノロジーが発展しても代わりにならないものもあるということは、忘れないようにしたい。

こうしたAIの技術が進化していくことで、未来都市に住む人々がいつでも好きな時に「質の高い学び」を得ることができれば、さらに都市が豊かに発展していくことだろう。

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