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統合された社会へ向かって。“新しい生活様式”への道筋を示す「マイナンバー」

2020.08.21

「マイナンバーカードはお持ちですか?」

まるでポイントカードの有無を訊ねるように問いかけてしまったが、皆さんはマイナンバーカードを持っているだろうか。おそらく持っていない方が大半を占めるだろう。筆者もその一人だ。

令和2年7月現在のマイナンバーカード交付枚数は約2,200万枚であり、人口に対する交付枚数率で換算すると約17.5%と2割に満たない数値※1。5人に1人しか保有していない。「緑色の紙が家にある」という方もいるかと思うが、それはマイナンバー“通知”カード(以下、通知カード)であり、マイナンバーを証明するカードではあるが、身分証明書代わりや各種申請の際には使用できない。文字通りマイナンバーを通知するだけの紙である。

実はその通知カード、本年5月には、マイナンバーカードの交付枚数が予想よりも少ないことを背景に交付を廃止。以降は「個人番号通知書」が郵送される※2のだが、これには通知カードのようなマイナンバーの証明効力はなく、マイナンバー証明書類が必要な場合はカードを発行せざるを得なくなるのだ。

最近では、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴う収入の低下を補うため、全国民に対し一律10万円の特別定額金を給付することが決定した際、オンライン申請をすると通常よりも早く給付が受けられると話題になった。しかし、マイナンバーカードを持っていない家庭が多く、その交付申請のために区役所等に人が押しかけ、結果的に通常の申請と同じ時期に給付金が振り込まれるなど、その混乱は記憶に新しいだろう。

また、本年9月からはマイナンバーカードを活用したマイナポイントというキャンペーンもスタート。マイナポイントとは、マイナンバーカードと紐づけたキャッシュレス決済サービス(以下、キャッシュレス)で買い物やチャージをすると、利用金額の25%がマイナポイントとしてもらえるというもの。5,000円という上限は定められているものの、買い物やチャージをするだけで大幅にポイント還元があることは魅力的だ。

そんな用途が多彩なマイナンバーカードないしマイナンバー制度とは、そもそもどういうものなのか詳しく知らない方も多いはず。今回は、マイナンバーの基礎知識や日本での取り組み、海外の事例などを踏まえ、今後の動向について考えてみよう。

マイナンバーの基礎知識とその目的とは

まずマイナンバーの基本を抑えておこう。マイナンバーとは日本に住民票を持つすべての人(外国人含む)に与えられる12桁の番号のこと※3。原則変更は認められておらず、悪用等の懸念がない限り国から発行された番号を生涯使い続ける。「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」、通称「マイナンバー法」に基づいて運用され、内閣府の外局である行政機関「個人情報保護委員会」が基本方針の策定や監視を行っている。

国がマイナンバーで成し得たいことは、「行政を効率化することで、便利で暮らしやすい社会をつくる」こと。その第一歩として社会保障、税金、災害対策の3つの分野をマイナンバーによって統一するのが、平成27年より通知され、翌年から本格的な運用が始まった今日のマイナンバー制度である。マイナンバーはこれら3つの分野における複数の機関にまたがる個人情報が同一の情報であることを確認するために活用されている。

これまでは社会保障や税金、災害対策といった申請はそれぞれ窓口が違っており、提出する書類も多くあったため、手続きが大変なだけでなく私たちが実際に保証を受けられるまでにかなりのタイムラグがあった。また、行政側の負担も大きく、審査を通すだけでも膨大な時間を要していたのだ。

これがマイナンバーを活用することで、行政は既に管理されている情報から必要なものだけを取り出して審査することが可能なため、時間短縮だけでなく手続きの簡便化も可能になった。また、従来は書面の情報だけで判断していた行政の支援においても、マイナンバーによる分野横断的な情報を基に審査することができるため、本当に必要な人への支援が迅速に届くようになったのだ。

身近で使う機会が少ないため、またそもそもカードを保有していない人が多いため、あまり恩恵は感じられていないかもしれないが、マイナンバーは単なる数字ではなく国民一人ひとりのQoL(Quality of Life:生活の質)を向上させてくれる大切な番号ということだ。

忙しい日本人ほど持つと便利? マイナンバーカードでできること

さて、マイナンバーとはどういう位置づけなのかが分かったところで、マイナンバーカードのメリットや必要の有無について考えてみよう。

マイナンバーカードの大きなメリットは2つあると考える。一つ目は公的な身分証明者として使用できる点※4。身分証明書といえば運転免許証やパスポートが一般的だが、取得までにお金がかかる上、交付までの期間も長い。この先運転しない人や海外へ渡航する予定のない人からしたらお金をかけてまで必要のない証明者を取得しようとは思わないだろう。一方マイナンバーカードは無料で発行できるうえ、公的なものとして提示が可能なため発行しておいて損はないはずだ。

二つ目は各種の行政手続きをオンライン上で行える点。マイナポータルと呼ばれるサービスサイトにて、子育てや介護に関する申請、インターネットバンキング、e-Tax*といったさまざまサービスが利用でき、各自治体の役所へ足を運ばずとも行政手続きを完了することができる※4
*所得税や贈与税といった国税に関する手続きをインターネット上で行えるサービスのこと

また、マイナンバーカードにはICチップが内蔵されており、住宅の契約や高額な買い物、就職の際に必要な「住民票」や「印鑑登録証明書」などをコンビニエンスストアで発行することも可能※4。窓口へ行って何時間も待たずとも、インターネット上や身近なコンビニで完結出来ることは、忙しい日本人にとって革新的なことだろう。

 
【出典】マイナンバーカードでマイナポイント|マイナポイント事業部|総務省

加えて、冒頭で紹介したように、本年9月からはマイナポイントというキャンペーンもスタートする。マイナポイントとは、総務省のマイナポイントサイトやアプリからマイナンバーカードをつかって予約・申請を行い、予約の際に選択したキャッシュレスで買い物やチャージをすると、利用金額の25%がマイナポイントとしてもらえるというもの。上限は5,000円と定められているため、20,000円分までの買い物やチャージをする場合には断然お得になる※5

手続きも非常に簡単で、スマートフォンからでも予約・申請が可能。ちなみにそのマイナポイントは選択したキャッシュレスにのみ反映され、選択後の変更もできないため、予約の際には普段最も使用しているキャッシュレスで申請するよう注意が必要だ。

このように、施策開始以降あまり関心度の高くなかったマイナンバーカードだが、政府は少しでも認知度や交付枚数を高めようとさまざまな施策を打っている。「こんなことができるのか」と気付きがあった方は、総務省のHPなどを参考にしながら交付申請をするな否かを検討してみてもいいだろう。

進む海外のデジタル化。マイナンバー制度の上をいく番号管理システム

では、このような取り組みは日本だけなのだろうか。すこし視野を広げて海外ではどうだろう。実は、このようなマイナンバーに近いシステムを活用して行政の効率化し、国民が暮らしやすい社会を実現している国は数多くある。その中でも特徴的な2つの国の成功事例を見ていこう。

■デンマーク
 

「世界幸福度ランキング」で毎回上位にランクインするデンマークでは、「CPR Number」という10桁の住民登録番号がある。デンマークでの滞在・就労許可を得た人(国籍は問わない)が申請可能で、許可を得た日から3カ月以内、または在住地への滞在を完了した日から5日以内に申請する必要がある。

取得すれば健康保険カード(Yellow Card)、住民登録カードが交付され、CPR Numberがあれば社会保障はもちろんのこと、生活に必要不可欠な携帯電話の契約や銀行口座の開設ができたり、医療費が無料になったりする。

また、デンマークには「NemID」と呼ばれる独自の電子署名があり、これは本人であることを証明するいわば身分証明書のようなもの。証明書といっても実物があるわけではなく、あくまでIDとして使用するため盗難や紛失の心配がない。

このNemIDがあれば、オンライン上でほぼ全ての行政サービスが受けられ、本人確認が必要な手続きもNemIDでログインすることが本人の証明となるため不要に。CPR Numberとの組み合わせであらゆるサービスや契約ができるというわけだ。

■エストニア
 

バルト三国の一つ・エストニアは“電子政府”や“電子国家”と呼ばれるほど情報のデジタル化が進んでいる。例えば、データのトラッキングやモノ・情報の管理をリアルタイムで可能にする、同国のスタートアップ企業・Guardtimeが開発した独自の「KSIブロックチェーン」。行政や医療といった各分野に分散したデータを一つにまとめ、申請や審査といった作業をペーパーレスで迅速かつ正確に行えるプラットフォーム「X-Road」などがあるが、特筆すべきは「e-ID」だろう。

e-IDは本人を証明するための国民番号であり、保有が義務付けられているためほぼ全ての国民がこの番号を持っている。このe-IDのすごいところは、マイナンバー同様に身分証明書として利用できるだけでなく、ポータルサイトへアクセスすれば教育機関への入学申請や処方箋の履歴、納税額の確認、さらには選挙の投票までもがオンラインで可能になるところだ。また、一部の公共交通機関の支払いや買い物の際のポイント付与などもe-IDに統合されているため、e-ID一つあればあらゆるシーンで利便性を発揮する。

エストニアではこうしたe-IDをはじめとする3つのサービスが連携することで、オンラインで全て完結できるようになっている。国民の幸せだけでなく、政府の負担も減らすことができる、まさにWin-Winなシステムと言えよう。ちなみに結婚・離婚・不動産売買といった人生の大きな決断はオフラインでのみ行うことができるようになっている点も人間味があって面白い。

この他にスウェーデンや韓国などでも、マイナンバーに相当するサービスを活用して「行政を効率化することで、便利で暮らしやすい社会をつくる」取り組みが行われている。ここまでの基盤を整えるには、行政がデータを徹底管理する責任と安全なシステム、そしてなにより国民の理解が重要になるが、国が堅実な未来のビジョンを指し示すことで一人ひとりの意識が同じ方向を向き、結果的に利便性の高い環境が構築されるのではないだろうか。

古風な日本へイノベーションを起こすために

やはり世界は広い。海外をみると驚くことばかりだ。日本は改革を起こそうという意思はあるものの、慎重になりすぎているせいか、新しいものへの抵抗やそれを取り入れるスピード感に欠け、結果的に古いやり方に回帰してしまう印象を受ける。

また電子化は進むものの、形式を重んじる傾向にあるため、紙媒体での書類のやりとりはまだまだなくならないだろう。マイナンバー制度においても日本ではセキュリティや情報管理・統合の範囲などで課題が多く残る。

しかし、紹介した海外の成功事例に少しずつ近づいてきていることも事実だ。先述のようにマイナポイントによるマイナンバーカードの普及施策は一見地味に見えるが、仮にこうした施策でマイナンバーカード保有者が増加すれば、10年、20年先を考えたときに今回の給付金での混乱のようなことは起こらなくなるかもしれない。

新型コロナウイルス感染拡大によって、リモートワークやリモート会議、キャッシュレス決済の推奨など、さまざまな事項を盛り込んだ“新しい生活様式”が求められる今、オンライン上や非接触で完結できるサービスの整備は喫緊の課題になっている。マイナンバーを活用したサービスもその一端を担うだろう。

そのためにはまずは国が「こうありたい」というビジョンと「こう便利になる」というメリットをしっかりと説明し、国民が長い目で見守りつつ協力するという姿勢が大切になるのではないだろうか。

【出典】
※1 マイナンバーカード交付状況(令和2年7月1日現在)|マイナンバー制度とマイナンバーカード|総務省
※2 個人番号通知書について|マイナンバーカード総合サイト|地方公共団体情報システム機構
※3 マイナンバー制度|総務省
※4 マイナンバーカード6つのメリット|マイナンバーカード総合サイト|地方公共団体情報システム機構
※5 マイナンバーカードでマイナポイント|マイナポイント事業部|総務省

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