コロナ禍で認知拡大していくeスポーツ
2020年は新型コロナウイルスの影響でさまざまなスポーツが活動停止を余儀なくされていた。そんな中、F1選手がeスポーツに参戦した、というニュースを目にしたことはないだろうか?
2020年のF1が延期になり、その期間、公式レースゲーム「F1 2019」を使った大会「F1 Esports Virtual Grand Prix」やチャリティーレースである「Race for the World」など、バーチャル上でいくつかのレースが開催されシャルル・ルクレール選手や、バルテリ・ボッタス選手など現役のF1選手が出場したのだ。
シャルル選手は主役映画作品『Le Grand Rendez-Vous』が公開されている人気の選手であり、バルテリ選手は2019年のF1で2位を取っている実力のある選手。「F1 Esports Virtual Grand Prix」や「Race for the World」はそんな知名度のある選手も参加する大会となった。また、「F1 Esports Virtual Grand Prix」のオーストラリア戦ではシャルル選手が優勝を飾っている。
F1以外にも、テニスの大坂なおみ選手や錦織圭選手がNintendo Switchのスポーツゲーム「マリオテニス エース」のチャリティ大会に出場するなど、著名人のeスポーツ参加が話題になった。
そんなeスポーツという単語が使われ始めたのは2000年頃。今回は、そこから20年経った今のeスポーツの現状を振り返り、この先どのような発展が見込まれるか予想していく。
1タイトル1億人越えも? 増え続けるeスポーツの競技人口
先述のように、コロナ禍で通常のスポーツ大会が開けなかったことにより、著名人のeスポーツへの参加が話題となる場面も多く、認知がより一般に広がっていった。そんなeスポーツだが、そもそも競技の参加人口はどのくらいいるのだろうか。
eスポーツはレーシングやテニスといったスポーツゲームのみならず、格闘ゲームやシューティング、カードゲームなどそのジャンルは多岐にわたり、昨今人気が高まっているのがバトルロイヤルゲームである。その中でもメジャーゲームタイトルである「Fortnite」(100人のプレイヤーの中から最後の1人になるまで争う多人数参加型対戦ゲーム)の登録プレイヤー数は、なんと3億5,000万人を突破(2020年5月7日に公式Twitterにて発表)。2017年7月25日に早期アクセス版が配信され、稼働直後は100万人程度の登録者数だったが、1カ月で1,000万人、2018年6月には1億2,500万人と、急激な成長を見せた(※1)。こちらは登録プレイヤー数のため、アクティブプレイヤー(ある期間内に1回以上のプレイがあるプレイヤー)の数ではないが、かなりの人数であると言える。
また、Fortniteは公式ゲーム大会の高額賞金でも有名で、2019年に行われた「Fortnite World Cup」の賞金総額はなんと約32億6,000万円。この大会では16歳の「Bugha」選手がソロ部門で優勝し、約3億3,000万を手に入れたことで話題を呼んでいた。リリースからわずか3年足らずで圧倒的な成長を見せるFortniteは、そのゲーム性のみならず、賞金額やイベントの規模などでも多くのプレイヤーを魅了している。
他のメジャーゲームタイトルである「League of Legends」(5対5の戦略シミュレーションゲーム)はアクティブプレイヤーが1億人以上いるといわれている。(※2)ゲーム自体のプレイ人数も多いが、大会の視聴者(観戦者)数にも注目だ。2018年の「League of Legends」の世界大会ではユニーク視聴者数(同じIPアドレスからのアクセスを1回と数えた視聴したユーザーの数)9,960万人と、1億人近いユーザーが視聴している人気ぶりである。
株式会社Gzブレイン(現在は商号を株式会社 KADOKAWA Game Linkage へ変更している)が2018年7月に行った調査(※3)によると、国内eスポーツ視聴者数は約382.6万人。そのうち10~30代が69.1%を占め、若者の視聴率が高い。2017年の9月時点の調査では230.4万人だった視聴者数が1年程度で100万人以上増えていることからも、これからさらに盛り上がっていく文化であることが予想できる。
イギリスのスタッフォードシャー大学では、既に「eスポーツ学」の学位の新設するなど、教育への参入も行われ始めている。eスポーツ学の1年次の必修科目は、「競争ゲーム文化」「eスポーツにおけるエコシステム」「eスポーツイベント体験」など、eスポーツに関わる仕事に就きたい学生を対象としたもの。日本でも、デジタルハリウッド大学では2019年度入学試験より「e-sports特待生枠」を設置しており、eスポーツ(FIFAシリーズ/ウイニングイレブンシリーズ)において優秀な成績を納め、在学中にもeスポーツの継続の意思がある学生が入学対象となっている。志願者の中でも特に優れた人は特待生に選ばれ、授業料が最大で4年間全額免除となるのだ。日本でも既に教育部分での取り組みの第一歩目が行われており、今後もより学生選手が練習に集中できる環境が用意されていくことが期待される。
こうした現状を踏まえると、今後はサッカーやバスケットボールなどと同様に、優れたeスポーツの選手を大学や高校などが学費免除でスカウトするような事例も発生するかもしれない。
さまざまなテクノロジーが使われているeスポーツ
eスポーツは、PC本体やゲームシステム、大会の配信に至るまでハード面のあらゆる箇所に最高のゲーム環境を構築するためのテクノロジーが使われている。またソフト面では、選手へのマネジメントの面でも最大限の力を発揮できるようなテクノロジーが活用されているのだ。
2018年に、SAP(ヨーロッパ最大級のソフトウェア会社)がeスポーツ界のトッププロチームである「Team Liquid」と2018年の4月から3年間のスポンサー契約を結んだ。SAPはチームやプレイヤーのパフォーマンス向上を目指し、最先端の分析機能やテクノロジーソリューションを駆使して支援している。例えば、SAPのシステムを使用することで、アイテムや味方の能力によってどの程度相手からのダメージが軽減されたかをデータで把握することができる。感覚ではない、根拠のある数字としてのデータを確認しながら選手の育成を行うことで、効率的に技術力の向上を狙うことが可能だ。
このように、今後は選手自体の能力にプラスして、高い分析やデータ解析の力を持つ大企業がeスポーツ界に参戦し、チームのスポンサーとなることでより高レベルな戦いになっていくことが予想される。eスポーツは、テクノロジーの掛け合わせでさらに発展していくスポーツなのだ。
日本のeスポーツの現状と今後の発展の必要性
「eスポーツをオリンピックの正式種目に!」などという声も上がるように、eスポーツの発展は非常に目覚ましいものがある。実際、2003年11月、中国の中国国家体育総局はeスポーツを“99番目の正式体育種目”に指定した。また、“アジアのオリンピック”と呼ばれる「アジア競技大会」では次回2022年の大会からeスポーツが正式に競技として採用されることが決まっているのだ。こうした現状を鑑みると、IOCの主催するオリンピックの1種目としてeスポーツが採用される日もそう遠くはないのかもしれない。
先述のように、国内eスポーツ視聴者数は10~30代が69.1%を占めている。調査の伸び率やeスポーツの現状から予測すると、彼らの子どもが育つ頃である10~20年後には、世界の人口のほとんどがeスポーツの視聴経験がある状況になり、さらに視聴者数が伸びていくのではないだろうか。
総務省が平成30年3月に発表した「eスポーツ産業に関する調査研究」(※4)では2021年にeスポーツの市場規模が1,765.5億になると予想されているように、これから先市場規模はどんどん大きくなっていく。しかし、「eSoprts Earning」(※5)というサイトで2019年のeスポーツの獲得賞金を国別で見てみると、1位はアメリカで約4,000万ドル(約43億円)、2位は中国で約2,000万ドル(約21億円)、3位は韓国で約1,500万ドル(約16億円)と続く中、日本は15位の約300万ドル(約3億円)。1位のアメリカとは既に10倍以上の差がついている。個人プレイヤーランキングでも、日本のトップは364位の「tarakoman」選手。国別については人口の差の問題もあるが、個人の方は特に日本も上位を目指していきたいところだ。
そのための今後の課題としては、日本のプロゲーマーの数はまだまだ少なく、2020年現在、プロライセンスを獲得している選手は約200名ほど(※6)。他国のeスポーツ先進国に比べ、かなり遅れている状況にある。何故なら、日本ではゲームというと家庭用ゲーム機が一般的で、PCゲームがあまり取り入れられていないことや、まだまだ「ゲーム=遊び」であるという認識が根強いからだ。
しかし、今後企業がさらにeスポーツに参入してくると、高校や大学などの教育機関のうちから、eスポーツ選手の囲い込みが激化してくると予想できる。そうした未来では、子どものころから英才教育としてサッカーやバスケなどの習い事をさせるのと同じように、eスポーツないしゲームが“習い事”として取り扱われる日が来るかもしれない。
今後、市場規模・視聴者数が伸びていく可能性が高く、テクノロジーの発展の象徴にもなりうるeスポーツ。このスポーツで良い結果を残すことは、金銭的にも、国民の興味関心にも、また、テクノロジーやゲーム業界の発展にも、意義のあることだと考える。
サブカルチャーの発信地であり、「ゲーム大国」である日本こそ積極的にeスポーツ事業に乗り出し、世界をリードする存在へと変わっていくことが必要なのではないだろうか。
【出典】
※1 フォートナイト公式Twitter(@FortniteJP)
※2 「League of Legends」公式HP(https://jp.leagueoflegends.com/ja-jp/)
※3 株式会社Gzブレイン「国内eスポーツの実態調査」(https://www.famitsu.com/news/201809/19164293.html)
※4 総務省「eスポーツ産業に関する調査研究」2018年3月
(https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11332932/www.soumu.go.jp/main_content/000551535.pdf)
※5 「eSoprts Earning」(https://www.esportsearnings.com/countries)
※6 一般社団法人日本eスポーツ連合 公式HP (https://jesu.or.jp/contents/license_system/)
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