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健康管理を手助けするサービスたち。健康経営は私たちにとって味方なのか?

2020.05.21

「日本人は真面目に働きすぎだ」と言われることがある。労働政策研究・研修機構「データブック国際労働比較2019」によると週49時間以上労働している人の割合が約19%とイギリスやドイツに比べて高い。きっと、「この仕事は今日のうちに終わらせるんだ」と決めた目標に対して、絶対にやり遂げなければいけないという使命感を持って仕事している人が多いのだろう。確かに、私の中学校や高校の同級生をみていると、真面目なのか残業している人が多い。しかし、新社会人はもちろん、入社して3年ほどの中堅層でも以下のことを思った日があったのではないだろうか。学校を卒業し、初めての就職をした新社会人だけでなく、入社して3年ほどの中堅層でも以下のことを思った日があったのではないだろうか。

・疲れていても、毎日のように残業しているのに給料が安く、仕事のモチベーションがあがらない。
・社内の派閥がいくつもあるせいで人間関係に疲れる。
・寝ても前の日の疲れが取れず、仕事に行きたくない。

このような状態が続くと、仕事に集中できなくなったり、上司の顔を見るのが辛くなったりと悪いことが立て続けに起きるものだ。そうとは知らずに仕事をどんどん任せる会社に対してもっと社員の健康状態を見て欲しいと思うことだろう。

そんな中、政府や企業の間では「健康経営」という言葉が注目されている。経済産業省が2020年3月2日に健康経営優良法人2020を発表するなど、多くの企業が社員の健康管理を見直す取り組みを行っている。では具体的にどのような取り組みが行われているのか、見ていこう。

健康経営の意味と企業の取り組み

そもそも健康経営ってどういう意味なのか、知っている人は少ないのではないだろうか。特定非営利活動法人健康経営研究会によると、以下のように解説されている。

健康経営とは、「企業が従業員の健康に配慮することによって、経営面においても 大きな成果が期待できる」との基盤に立って、健康管理を経営的視点から考え、 戦略的に実践することを意味しています。出典:特定非営利活動法人健康経営研究会 健康経営とは

要するに従業員の健康管理をしっかり行うことで、生産性などがあがり、会社の経営が良くなる可能性が高い。だから従業員の健康管理を戦略的に実施しよう。ということだ。

企業が健康管理をしてくれた結果、生活習慣が改善し、健康的に痩せることができるかもしれないし、病気にかかることが少なくなれば、治療のために休む必要がなくなるため、自分の時間をしっかりと持てる。また身体的にも精神的にも健康になれば、仕事の効率が良くなり、残業時間がなくなるかもしれない。そう考えると、仕事や趣味で健康管理まで手が回らりづらい、労働側の私たちにとって助かる話だろう。

では実際にどのような取り組みを企業で行われているのか、2018年から2020年まで3年連続で健康経営優良法人に認定された富士通ゼネラルの取り組みの一部を紹介しよう。

富士通ゼネラルでは、健康経営の取り組みの一つとして就業時間中でも健康デザインセンターと呼ばれる場所で卓球やエアロバイクなどの運動や健康相談などができるようにしている。イベントも定期的に行われているこのセンターでは、出社できなかった社員が復帰することができたというような大きな成果もあげている。

メンタルヘルスや病気といった要因での人材の損失を防ぐというような、企業としてのメリット以外にも、病気などの理由で転職をする必要がなくなり、金銭面や健康面の心配をしなくても良いというような労働側にもメリットがある。私個人としては、業務時間の間に卓球ができることが非常に魅力的に感じている。

しかし、全ての会社が富士通ゼネラルのような大規模な取り組みができるかといわれると、スペースやコストなどの問題があるので、実現できないことがほとんどだろう。

そこで富士通ゼネラルと同じように、健康経営優良法人に認定されている伊藤忠商事の事例の一つを紹介したい。一定以上の肥満基準を上回る20代から30代の若手社員を対象に、ウェアラブル端末(Apple Watchのような身に着ける端末)などの機器を活用して、体重や睡眠時間を管理し、専門家からのアドバイスを定期的に受けられるという取り組みだ。

ウェアラブル端末などの支給にかかるコストはかかるかもしれないが、データを収集し分析するアプリケーションだけで簡単に健康管理ができるとしたら、多くの企業で健康経営が実現できるのではないか。

社員の健康管理を手助けするサービスたち

健康管理といっても健康診断の実施や長時間労働の改善、ストレスチェックなど取り組まなければいけないことが多い。企業単体でそれぞれの取り組みを独自に進めるには負担が大きく、継続的に実施することはかなり難しいだろう。

そんな多くの課題を解決できるような、社員の健康管理を手助けするサービスが多く登場している。これを読んでいる人のほとんどが聞いたことのあるような大手からもサービスが提供されている。

例えば、日本の人事部長でおなじみのパーソルグループである、パーソルワークスデザイン株式会社が提供している健康プラットフォーム「MeUP」だ。このプラットフォーム上で健康診断結果を年別に比較できたり、ストレスチェックをWeb上から受けたりすることができる。また、食事の写真を撮るだけで摂取カロリーや栄養素を確認することができ、1日の過不足の栄養素がわかるといった機能がある。

これらのデータは産業医や保健師と共有されるので、普段の生活習慣を説明をする手間が省ける上に、どういったものを日常で食べているかなどの細かい情報も伝わるので的確な指導をもらうことが期待できる。食事の写真を撮るだけで、摂取カロリーや栄養素がわかるのは面倒くさがりな私にとっては非常に助かる機能だ。

MeUPでは健康診断や食事のデータといった情報を元に人が指導をしているが、株式会社NTTドコモでは、AIが指導する法人向け健康経営支援サービス「dヘルスケア for Biz」というサービスを提供している。

機能としては、健康診断結果をアプリケーション上で確認できる以外にも、AIがデータを分析し、一人ひとりに合わせた生活習慣を改善させるようなコンテンツやクイズを配信している。

将来、メタボリックシンドロームや高血圧といった生活習慣病にかかるリスクを予測する機能などもあるため、より自分の生活を見直す良いきっかけになるのではないか。また配信されるミッションをクリアするとdポイントがもらえるという特典もあるため、モチベーションがあがる。少なくとも、私だったらポイントを目的に取り組むだろう。

しかし、生活習慣の指導を受けたとして、指導されたことをちゃんと実行できる人はどれくらいいるのだろうか。筋力トレーニングやジョギングといった運動を毎日続けられる人は少ないと思うが、それでは指導を受ける意味がない。

MeUPとdヘルスケア for Bizはデータを入力することで人やAIが生活習慣を改善させる指導を行うサービスだったが、最後にもう一つ毛色の異なるサービスを紹介したい。

それは、サントリーグループのサントリー食品インターナショナル株式会社が提供している「SUNTORY+」だ。初回時に行うリスクチェックの判定に基づいた、誰でも簡単に達成できるハードルの低いタスクを実行していくことで、健康習慣を改善させるサービスだ。

ハードルが低いと言ったが、どれだけ低いかというと「朝食に牛乳を1杯プラス」というような、ほんの少し努力すれば達成できるようなタスクばかりが設定されている。

自分が食べたものや運動した量を記録していくタイプのサービスは自主的に入力しなければならず、飽き性な人や面倒くさがりの人はあまり続かなかったのではないか。しかし、このサービスは提示されているハードルの低いタスクを実行したという記録だけでいいから、継続してタスクを達成することができると思う。

自分が働く企業のためにも。社員の健康を大事にする未来へ

企業が行っている健康経営の事例や、健康経営を行いやすくするサービスを紹介してきた。ITやAIといった先端技術の発展によって、昔はできなかったことができるようになってきていることがわかったのではないだろうか。

労働者の私たちからすると、使ってみたいと思ったり、他にもどんなサービスがあるのか気になっただろう。一方で企業からすれば、企業価値をあげるためにも、出来ることならサービスを導入し、健康経営を推進したいのではないかと思う。

一部のサービスは無料で始めることができるなど、導入コストも低いものが登場しているため、健康経営を始めるハードルは低くなっている。

健康経営を行う上で、その企業に合った仕組みづくりが大変かもしれない。しかし企業にとっても私たちにとってもメリットの方が多いので、是非とも未来への投資だと思って工夫をこらしながら乗り切ってもらいたいと思う。

全企業で社員の健康を大事にする健康経営が当たり前になり、私たちの暮らしが豊かになる未来を実現するためにも、今後のサービスの発展やさまざまな会社の健康経営の事例から目が離せない。

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